月山学講座 第3回・月山の雪の多様性について |
講師 ◇芳賀竹志氏(月山山頂小屋ご主人) |
2009年11月1日(日曜)開催 |
□テーマ ◎月山の雪の多様性について ■芳賀氏のお話しの要旨 @雪に対しては、子供のときから遊びの対象だったので楽しいイメージがある。月山の雪に対しても、冷たいものというよりも、癒してくれる存在だ。夏スキーも雪の恩恵であり雪のおかげだと素直に思う。 A昭和25年、4歳のときから月山山頂で生活してきた。当時の生活用水は「神泉池」で充分にまかなえた。当時の月山は信仰登山が主で、先達の下に節度が保たれていたが、昭和30年代後半からは登山者も増え、利用の仕方も多様化し、「神泉池」の水だけでまかなう事ができなくなってきた。 B昭和47から搬送にヘリも利用。水も「神泉池」に加えて万年雪も利用するようになり、風呂も水洗トイレも可能になった。昭和60年代になって、登山利用者が拡大し、山小屋においても排水問題が問われ、「日本トイレ協会」などに関わる中で、山頂だからこそ、合併処理による浄化に取り組む必要を痛感してきた。そこで、平成になって、渇水時期の夏場にも豊富な万年雪の雪解け水を利用できる月山ならではの条件を活かした画期的な浄化槽を単独で設置した。 C万年雪の存在は人だけではなく、多くの動植物にも影響を与えている。雪解け水が育てたイワナは身が締まってうまいし、最近は栽培のたけのこが増えているが、天然ものはまるで味が違う、栽培ではだせない味。山菜も雪の多い所は格別。山頂の食材は、夏も山菜を提供できる。 D月山は泥炭層が豊富なので保水力がすぐれている。湿原、雪田、草原が多いが、さわやかでじめじめしていない。 Eカメラを通して様々な山頂の姿を見てきた。万年雪は一箇所だけでなく何箇所もある。霜の美しさ、初雪の多様さ、季節感の意外性、霧、雲、露など自然がつくる様々な現象を受け入れるとき、月山山頂の魅力が解る。とりわけ、山頂の尾根を境に西側と東側の、植生の見事な棲み分けは学術的にも価値があると思う。ヤマドリが一年中生活できる理由も解るだろう。 ■質疑の中で見えてきたこと ☆山頂にいち早く合併浄化槽を個人で設置したという出来事は、画期的であり、月山の誇りに思いました。 ☆万年雪という場を恵みの場として暮らすのは、山頂小屋だけではなくて、実はクマもカモシカもキツネもヤマドリもいるということ。本来は森林限界で暮らすこれらの動物たちと芳賀氏のふれあいと折り合いも絶妙でした ☆ここ最近15年ほどに、山頂においても環境の変化・異変を感じるとのこと。例えば、初雪、降雪が確実に遅くなってきている。昔は山を降りる9月中に必ず1〜2回は雪になったものだが、最近は12/2に雪を踏まないで山頂に行けたときもあったとのこと。しかし、昔も異変はあったが、いちいちびっくりしなかったのに、最近はちょっとした異変にも反応し過ぎのようにも思うとの認識は半世紀を月山山頂で暮らしてきた氏ならではの言葉だと思いました。 ☆芳賀氏が率先して山頂台地にロープを張るようになって、ずいぶん山頂の植生と土壌は保護されてきたように思います。神社所有地に、理解と了解が得られない当時に、芳賀氏の個人的な行為となり、誤解をされながらの、勇気ある行動が今日を支えているのだと思います。 ☆山頂での小屋営業の歴史は古く、少なくとも芭蕉以前から300年以上は続いています。江戸時代は山頂だけで13軒の山小屋があり、明治になって7軒、今は1軒のみとなりました。小屋の権利は高額で取引され、昔は頻繁に売買されていたようで、芳賀家では昭和19年から続いています。 ☆月山は信仰の山なので神社の存在が大きく、登山道の両脇30間、計60間が神社の所有地となっています。昔も現在も神社の存在が大きく、その中で一個人としての芳賀氏の先進的な実践は大切な役割を果たしてきたと思います。 ☆これまでの取り組みの中で、環境保全・植生復元活動は実に難しいテーマであったようです。性急に進めると緑が回復してきたとしても不自然な景観となってしまうことがあります。植生復元活動に関しては、前回の月山学のゲスト:斎藤員郎氏も同様の見解で、環境研究のプロ、月山を知り尽くしているプロの目を納得させるような、地道な本物の取り組みを目指さなければと改めて思いました。 以上、有意義な時間となった第3回目の月山学でした。 芳賀氏はいつの場面でも、おごらず気負わず自然体です。月山山頂という極めて狭い地点に根をしっかりと張りつつ、環境というとてつもなくでかい視野で自らの行動を律しています。更に、氏は充分過ぎるほどに知り尽くしている月山の自然に、今なおニュートラルな姿勢で、全ての自然の姿に素直に対峙しようとしています。特に、月山特有の高山植物にこだわり続けながらも、それ以上に、雲や霧や霜などの自然現象に心ときめかし、情熱を注いでいます。このような自然現象が、実は、主役となる花々の生態に大きく影響しているということ。こうした地味な自然に目を向ける芳賀氏の深い人間味を少しは理解できたように思います。当初は、積雪深30mを超える月山の雪と芳賀氏の壮絶な苦闘の物語をイメージしましたが、もっと深く、本物の自然への対峙の技、何も排除せず、信念を曲げず、素直に、そこの自然環境と向き合うことの大切さを学びました。貴重なお話し、ほんとうにありがとうございました。 |